日本離床学会 - 早期離床・看護・リハビリテーション

Q&A Vol.26 酸素飽和度90%以上で苦しいと訴える患者さんについて

質問

経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)が90%以上あっても呼吸が苦しいと訴える患者さんがいます。どうすればよろしいでしょうか?

回答

回答者:曷川 元、他 日本離床研究会 講師陣

実際の臨床の現場でも酸素飽和度(SpO2)が90%以上保持されているのに、呼吸苦を訴える患者さんはいらっしゃいます。
対応を考えるには呼吸苦の原因を特定することが重要です。まず考えられるのは高二酸化炭素血症による呼吸苦です。
皆さんは酸素飽和度90%を体験したことはありますか?
我々、健常人では常時95%以上の数値が保持されておりますが、「息止め」をして90%程度に低下させてみたことはありますか?筆者も経験したことがありますが、相当「苦しい」はずです。
一方で皆さんが飛行機に乗った時には同じく酸素飽和度が90%前後まで低下していますが、多くの方は「苦しい」と訴えません。
どちらも低酸素血症の状態ですが、この両者の違いは何でしょうか?答えは二酸化炭素の貯留です。飛行機の中では軽度低酸素血症の状態を呈しても、換気の制限を受けないため、息切れや呼吸苦が生じにくいのです。生理学的には、高二酸化炭素血症時には中枢化学受容野の反応によって呼吸苦を自覚し、換気を亢進している状態です。

このような高二酸化炭素血症の対応としては、換気を改善することです。方法としては離床をすすめる、換気効率改善体位をとる、呼吸法の指導、呼吸筋の柔軟性改善、人工呼吸療法、非侵襲的陽圧換気などが挙げられます。
他にも貧血の場合も酸素飽和度が90%以上保持されているのに、呼吸苦を訴える可能性があります。
酸素飽和度とはヘモグロビンに結合する酸素の割合を示しています。つまり酸素分圧を直接反映しているわけではないということです。
貧血であっても、ヘモグロビンに酸素が十分結合していれば、酸素飽和度は正常値を示します。
しかし、貧血でヘモグロビン量が通常の半分だったとします。すると組織に運搬される酸素量は半分となり、組織は酸欠状態に陥ります。当然息切れを起こし酸素を身体に取り込もうとします。
このような場合には貧血を是正する治療である輸血療法などが対応としては考えられます。
その他にも「呼吸困難」の原因としては低栄養、呼吸筋疲労、胸水腹水、精神的な影響など原因は様々です。
SpO2が90%以上あっても呼吸が苦しいと訴える患者さんに、何をすべきか?答えは、「呼吸困難を引き起こす原因・病態を把握し、アプローチを考える」ことです。
酸素療法、心理療法、薬物療法、リハビリなど多職種が関与する必要がありますので、主治医に報告しカンファレンスを開催するのも良いかと思います。