新コーナー「整形外科・運動器最新エビデンス」の最新情報をお届けします!このコーナーでは、運動器リハビリのエキスパートである海津先生が“これは面白い”という、整形外科・運動器にまつわるエビデンスを紹介。数値や統計の専門用語が出てきますが、このシリーズで、かみ砕いて解説してくれるので、少しずつ慣れていくように、是非、読んでみてください。
今回は「体幹強化が腰痛を鎮める4つの理由」という内容を紹介します。
*********************************
腰痛は、老若男女問わず多くの人が経験する症状で、離床時に腰痛を訴える患者さんを担当した経験のある方も多いと思います。腰痛の治療法も多岐にわたりますが、近年注目されているのが体幹に対する「運動制御エクササイズ(Motor control exercise, MCE)」です。MCEは、脊椎と骨盤の制御と協調性を高める体幹トレーニングのことで、多裂筋や腹横筋などの弱化した深層筋の活動を促す目的で行われます。
今回は、体幹トレーニングとしてのMCEがどのように腰痛に効果をもたらすのか、その仕組みを解き明かしたレビュー論文を紹介します。今回のレビューでは、脳、生化学、炎症、神経筋という4つの側面から、MCEの効果が分析されました。4領域の効果の仕組みは、以下の通りでした。
- 脳への影響
脳科学の視点からは、慢性腰痛患者では脳梁や内包の白質が減少し、側頭葉や島皮質など疼痛に関与する部位の灰白質も減少していることが確認されています。興味深いのは、筋力トレーニングでこれらの変化が改善する可能性がある点で、筋肥大と白質容積、右側頭葉の灰白質の増加が報告されています。このような脳の可塑性が、体幹トレーニングによる痛み軽減に寄与しているのかもしれません。 - 生化学的作用
体幹トレーニングは運動誘発性痛覚低下(exercise-induced hypoalgesia, EIH)を引き起こします。EIHは、運動部位が近いほど効果が高くなるという特性があり、腰痛に特化した体幹トレーニングは、局所的な痛み軽減効果を発揮する可能性があります。ただし、この効果をさらに詳しく検証するためには、質の高い研究が必要です。 - 炎症への影響
椎間板変性や炎症が腰痛の原因とされる中、運動には抗炎症作用も期待されています。体幹トレーニングでは、炎症性因子TNF-αが抑制される一方、抗炎症性因子IL-6の増加が確認されています。これにより、炎症の抑制と治癒促進が期待されます。 - 神経筋の調整
体幹深部筋は、日常生活で体幹を安定させる役割を果たしますが、慢性腰痛患者ではその機能が低下しています。体幹トレーニングは深部筋をターゲットにして筋力を強化し、誤った活性化モードを正しいパターンへと再教育します。さらに、筋肉内脂肪の減少や腰背部筋の筋肥大といった効果も報告されています。
これらの結果から、体幹トレーニングが腰痛に与える影響は単なる「痛みの改善」にとどまらず、脳や炎症といった多方面への栄養から、ADLの改善につながることが期待できます。体幹トレーニングは腰痛患者にとって、効果的で多面的な治療法である可能性が示唆されました。
特に、患者一人ひとりの症状や期待する効果に合わせて、トレーニングを調整することが重要です。「知は力なり」、治療者が体幹トレーニングの多様な効果を理解していることで、より効果的な治療が提供できると考えます。
文献情報:
Xu, H., Zhang, Y., & Zheng, Y. (2023). The effect and mechanism of motor control exercise on low back pain: a narrative review, EFORT Open Reviews, 8(7), 581-591.
https://doi.org/10.1530/EOR-23-0057
[海津先生による新講座が開催決定!]
3月20日(木・祝) 10:00~16:00 ※2週間見逃し受講期間有り
股関節OAに対するエッジの効いたリハアプローチ
講師:海津 陽一 先生
https://www.rishou.org/seminar/theory/r287-2025#/
皆様の申し込みを心よりお待ちしております。
Tweet