新コーナー「整形外科・運動器最新エビデンス」の最新情報をお届けします!このコーナーでは、運動器リハビリのエキスパートである海津先生が“これは面白い”という、整形外科・運動器にまつわるエビデンスを紹介。数値や統計の専門用語が出てきますが、このシリーズで、かみ砕いて解説してくれるので、少しずつ慣れていくように、是非、読んでみてください。
今回は「静的ストレッチは筋力にも効く!?」という内容を紹介します。
*********************************
ストレッチの中でも、静的ストレッチを介入として選択する場合、その目的とは何でしょうか?多くの場合、「柔軟性の改善」や「関節可動域の拡大」だと思いますが、1つの介入はたった1つだけの目的を果たすわけではありません。例えば、歩行練習は歩行能力を改善しますが、同時に全身持久力やバランス能力を改善する効果も果たします。
今回は、静的ストレッチが柔軟性に加え、筋力・筋パワーにどのような影響を与えるのか、最新の研究結果をもとにお伝えします。今回のメタ解析では、41件のランダム化比較試験が対象となり、健常者を対象に静的ストレッチが柔軟性、筋力・筋パワーに及ぼす影響を調べました。メタ解析とは、集めた複数の研究結果を統計的に分析し、全体としてどのような傾向があるかを明確にする手法で、強力なエビデンスを提供します。
結果は、柔軟性改善については中程度から大きな効果を示し、筋力とパワーについては小さな効果があったということです。柔軟性の改善を目的とした静的ストレッチが、実は筋力や筋パワーを高めている可能性があることは、大変興味深いことです。このような効果は、特に座りがちな高齢者に強く見られ、女性や高齢者では、筋力向上の恩恵を受けやすいことがわかりました。
さらに、ストレッチの効果はセッションの回数やストレッチの長さに比例して大きくなり、ストレッチングをする際に時間をかけて行うほど、柔軟性が改善されたということです。
この研究を臨床応用して考えると、発症初期の自発的に筋出力が難しい状態であっても、しっかりと静的ストレッチを行うことで、柔軟性を維持するとともに、筋力・筋パワーを維持・改善することを期待することができるかもしれません(この部分を真に明らかにするには、新たな研究が必要になりますが)。
何にせよ、一石二鳥という言葉が示す効果を出したい場合、まずは各介入が持つ、複数の期待される効果を理解することから始めたいですね。
文献情報
Anderson, A., & Williams, K. (2023). The effects of static stretching exercises on muscle strength, power, and flexibility: A multilevel meta-analysis. Journal of Sportcience & Medicine, 22(5), 600-612.