新コーナー「整形外科・運動器最新エビデンス」の最新情報をお届けします!このコーナーでは、運動器リハビリのエキスパートである海津先生が“これは面白い”という、整形外科・運動器にまつわるエビデンスを紹介。数値や統計の専門用語が出てきますが、このシリーズで、かみ砕いて解説してくれるので、少しずつ慣れていくように、是非、読んでみてください。
今回は「日常生活に必要なROMとは?」という内容を紹介します。
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離床・リハビリにおいて、主要な介入の1つである関節可動域練習ですが、皆さんは何のためにこの練習を行っていますか?「関節可動域を向上させるため」、不正解ではありませんが、十分な回答とは言えません。例えば、「靴下を履けるようになるために、股関節の可動域を向上したい」など、日常生活動作と結びつけて、可動域の改善を考える必要があると思います。
本研究では、新型のウェアラブルセンサーを使って、健常者が日常生活の中でどのように股関節を動かしているかを明らかにしました。30名の健康なボランティア(年齢44.2±14.5歳)が参加し、対象者は股関節や四肢に異常のない方が選ばれ、彼らが日常生活の中でどのように股関節を使っているか(股関節の関節可動域)を調査しました。
使用されたモーショントラッキング装置は、股関節の屈曲角度をリアルタイムで計測できる新型のウェアラブルセンサーで、このデバイスで被験者の動きを詳細に分析しました。測定は歩行、階段の上り下り、しゃがむ動作、立ち上がる動作、トイレの利用、靴紐を結ぶ動作、車への乗り降り、ベッドへの出入りなど、日常生活において頻繁に行われるさまざまな動作で行われました。
日常生活動作における股関節の可動域について、以下のような結果が得られました。
• 歩行: 9.9°〜49.3°
• 階段昇段: 19.6°〜67.8°
• 階段降段: 26.2°〜52.4°
• しゃがみ動作: 平均120.0°
• 立ち上がり動作: 平均103.0°
• トイレ移乗: 平均112.6°
• 靴紐を結ぶ動作: 平均126.1°
• 車への乗車: 平均85.9°
• 車からの降車: 平均90.0°
• 車内での座位: 平均72.1°
• ベッドに入る: 平均95.6°
• ベッドから出る: 平均78.2°
離床・リハビリにおいては、患者さんの何を問題と捉えるか、が非常に重要で、単に正常値との比較において、逸脱を問題と捉えるならば、いくらでも問題点は出てくるわけです。それらの問題をすべて問題とあげつらえることは、有益なこととは思いませんし、患者さんにとっても分かりにくい問題となるでしょう。「関節可動域が正常より3度低いですね」→(だから何?)という話ですね。
今回の研究結果は、日常生活上の必要性と股関節の可動域をリンクさせることに役立ちます。例えば、車の乗り降りやベッドに入るといった日常的な動作も、それぞれ85.9°、95.6°の範囲で股関節の可動域が必要であることが確認されました。これらの具体的な数値を基にリハビリテーションの目標を立てることで、患者さんが「なぜ、その股関節の可動域を獲得すべきなのか」を意識しやすくなるでしょう。
「知は力なり」とは、イギリスの哲学者フランシス・ベーコンの言葉ですが、この研究が示した数値は、まさにその力となりえます。日常生活で股関節をどの程度動かす必要があるかを示しながら股関節可動域練習を行うことで、患者さんの離床・リハビリのモチベーションが向上し、より効果的な回復が期待できるかもしれません。
■ 文献情報:
Sah, Alexander P. “How Much Hip Motion Is Used in Real-Life Activities? Assessment of Hip Flexion by a Wearable Sensor and Implications After Total Hip Arthroplasty.” The Journal of Arthroplasty (2022).
https://doi.org/10.1016/j.arth.2022.03.052
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