日本離床学会 - 早期離床・看護・リハビリテーション

【人工股関節全置換術後の運動療法のすゝめ】運動器エビデンス

新コーナー「整形外科・運動器最新エビデンス」の最新情報をお届けします!このコーナーでは、運動器リハビリのエキスパートである海津先生が“これは面白い”という、整形外科・運動器にまつわるエビデンスを紹介。数値や統計の専門用語が出てきますが、このシリーズで、かみ砕いて解説してくれるので、少しずつ慣れていくように、是非、読んでみてください。

今回は「人工股関節全置換術後の運動療法のすゝめ」という内容を紹介します。

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人工股関節全置換術(total hip arthroplasty, THA)は、the orthopaedic operation of the century と評されるように、20世紀で最も成功した整形外科手術で、1960 年代から高齢股関節症患者の生活の質を劇的に向上させました。

ところが、手術自体による予後があまりにも良いからでしょうか、THAを受けた患者さんのリハビリについてのエビデンスは少ないのが現状です。患者さんの離床に携わる身としては、運動療法がTHA後のバランスと歩行にどれだけ効果があるのかは気になるところです。今回は、2023年に出版されたTHA後の運動療法の効果に関するメタ解析を紹介します。

・Patients(対象):平均年齢65歳の患者
・Intervention(介入):運動療法
・Comparison(比較):対照群または他の療法群
・Outcome(アウトカム):バランスと歩行の改善度
以上のPICOに基づき、合計11のランダム化比較試験のデータをメタ分析しました。

結果として、運動療法はバランス改善に有意な効果を示し、短期ではSMD※ 0.41(95%CI 0.11-0.70)、長期ではSMD 1.00(95%CI 0.35-1.64)でした。歩行については、短期ではSMD 0.53(95%CI 0.12-0.93)と改善が見られましたが、長期では有意な効果は見られませんでした。尚、この研究において短期は8週間未満の介入期間、長期は8週間以上の介入期間を示します。

※ SMD(Standardized Mean Difference、標準化平均差)とは?
・異なる研究の結果を統合するための指標
・この研究の場合、SMDは効果の大きさを示す
・一般的に0.2は小さな効果、0.5は中程度の効果、0.8以上は大きな効果を示すと解釈

以上の結果から、THA後の運動療法のバランスと歩行に対する効果が明らかとなりました。確かに、THAの予後は非常に良好で、「近年、THA術後リハビリテーション治療の必要性の有無が議論になることをしばしば経験する」と述べられているほどです。

中国の古い諺に「精益求精」という言葉があります。この言葉は、すでに優れているものをさらに改良し、完璧を目指すという意味の成語です。THAにおいても、精益求精の心で運動療法をすることで、更に良い回復を求めていきたいですね。

文献情報:
Park, Se-Ju, and Byeong-Geun Kim. “Effects of exercise therapy on the balance and gait after total hip arthroplasty: a systematic review and meta-analysis.” Journal of Exercise Rehabilitation 19.4 (2023): 190.
https://doi.org/10.12965/jer.2346290.145

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え?知らないで介入してるの??整外術式別にみる“踏み込んだ”疾患アプローチ 変形性股関節症編
【講師】五十嵐 達弥 先生 高橋 遼 先生
https://www.rishou.org/seminar/theory/r242-2024#/